ジローのヨーロッパ考・3rd

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臨時: 呼吸だけで感染力 スーパースプレッダー驚きの飛沫量

2021年3月4日(Thu.)16:15UP :  これは先日見かけた日本国内からの情報です。非常に示唆に富んでいる内容だと思いますので転載させていただきます。(ニュースソース: 日本経済新聞 2020年11月15日発 )

<原文転載>

呼吸だけで感染力 スーパースプレッダー驚きの飛沫量

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2020年10月6日、韓国のソウルで新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、防護服を着て道路に消毒剤を散布する作業員。韓国では、新規陽性者が6日連続で100人を下回ったが、秋夕の連休中に多くのクラスターが報告されたことから、陽性者数が今後増加するとみられている(PHOTOGRAPH BY CHUNG SUN-JUN, GETTY IMAGES)

2003年、重症急性呼吸器症候群SARS)の感染拡大に世界が注目していたころ、オーストラリアにあるクイーンズランド工科大学の物理学者リディア・モラウスカ氏は、大気を汚染する微粒子を吸引すると人体にどのような影響が出るかについて研究していた。そのモラウスカ氏のもとへ、世界保健機関(WHO)から、SARSを発症させるコロナウイルスの感染メカニズムを調べている香港の研究チームに参加してほしいとの要請があった。

モラウスカ氏は、従来のアプローチとは対照的に、人がどのようにウイルスを吸引するのかではなく、どうやって排出するのかに着目した。

「これについて少しでも触れている研究論文は3報しか見つかりませんでした。大変重要な分野だというのに、これまで研究されてこなかったことに驚きました」

それからほぼ20年が経過し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまたたく間に世界へと拡大した今年、この問題に再び関心が集まっている。ウイルスを乗せて空気中を漂う微粒子が、どのように体内でできているのかを理解することは、新型コロナウイルスがなぜこれほど速く拡大したのか、またごく少数の感染者から多くの人が感染してしまうのはなぜなのかを理解するうえで重要だ。

空気中を浮遊できるほど細かい微粒子はエアロゾルと呼ばれる。また、たった一人で多くの人を感染させてしまう人を「スーパースプレッダー」と呼ぶ。モラウスカ氏が調査を始めて以来、このエアロゾルとスーパースプレッダーの関係について、かなり多くのことがわかってきた。例えば、体形や声の大きさ、呼吸の速さなどが、感染力に大きく関わっているという。

「感染源となった人は、くしゃみやせきをしているわけではなく、ただ呼吸して、話をしていただけです」。エアロゾルによる感染を専門とする米メリーランド大学のドナルド・ミルトン氏は言う。

「叫んだり歌を歌ったりもするでしょう。カラオケバーは、集団感染が起こりやすいです。カナダでは、エクササイズ用のスピンバイクスタジオでクラスター(感染者集団)が発生しました。スタジオの中では、たくさんの人が集まって激しく呼吸をしていました」

だが、エアロゾルをたくさん排出する人を調べるとなると、測定しにくい生物学的・肉体的要素が色々と絡んでくるので難しい。

エアロゾルが生まれる仕組み

エアロゾルとは、空気中を数分~数時間漂える微粒子全般をさす。そのなかには乾燥したものもあれば、水分を含んでいるものもある。大きさは通常直径100マイクロメートル以下。人間の毛髪の太さと同程度だ。人間の気道で作られる飛沫の大きさは、5マイクロメートル未満のごく小さな「マイクロ飛沫」から、肉眼でも見えて空気中を漂わないものまでさまざまだ。

 モラウスカ氏によると、最も小さなマイクロ飛沫は、肺の奥深くにある細く枝分かれした「細気管支」という場所で作られる。粒が小さければ小さいほど空気中を浮遊する時間が長くなり、遠くまで移動できる。

モラウスカ氏と研究仲間のグラハム・リチャード・ジョンソン氏は、息を止める時間や呼吸のペース、深さを変えるなどして、さまざまなパターンの呼吸で排出されるエアロゾルを細かく計測し、細気管支が収縮・拡張するときに、その表面にある「気道液」がせっけんの泡のようにはじけることを示した。これが今では、肺の奥深くで極小のエアロゾルが作られる主な仕組みであると考えられている。両氏は、この結果をまとめた論文を09年に学術誌「Journal of Aerosol Medicine and Pulmonary Drug Delivery」に発表した。

似たようなことは、気道の上の方でも起こっている。

「声帯は目に見えない速さで開閉します」と、米カリフォルニア大学デービス校でウイルスの伝播(でんぱ)について研究する化学工学者のウィリアム・リステンパート氏は言う。細気管支と同様に、声を出すと声帯が開閉して気道液がはじけ、極小の飛沫が作られる。せっけんで手を洗ったとき、両手を引き離すと泡がはじける様子を想像してみよう。

声帯は1秒間に約百回という高速で開閉し、それによってできた飛沫は吐く息に乗って外へ運ばれる。また、口腔(こうくう)内では舌が動き、目に見えるほどの大きな唾液の飛沫が作られる。

「よく、口から唾を飛ばしながらしゃべっていることがありますよね」と、リステンパート氏は言う。

エアロゾルは鼻からも排出されるが、最も多く排出されるのはやはり口からだ。さまざまな大きさの飛沫が混然一体となって雲のように口から勢いよく吐き出され、最初の数秒間の動きと拡散する方向が決まる。

「気体の雲は、飛沫を閉じ込めたまま部屋の中を移動します」と、米マサチューセッツ工科大学流体力学者リディア・ブルイバ氏は解説する。

排出量を左右する要因は?

呼吸器でエアロゾルが作られる仕組みは誰でも一緒だが、実際にどれだけの量を体外へ排出するかは人によって大きく異なる。寒い日に、バス停に並ぶ人々が吐く白い息を見比べてみると、人によってその大きさが違うように。

気道の複雑さを考えれば、これは驚くことではない。モラウスカ氏は、香水の瓶を例にとって説明する。「香水の瓶は管が1本しかないので、1回押すと出てくる香水の量はいつも同じです。でも、気道には幅も長さも違う管が数多くつながっています」

 リステンパート氏の研究チームは19年、話し声が大きければ大きいほど、排出されるマイクロ飛沫の量が多くなるという論文を学術誌「Scientific Reports」に発表した。だがこのとき、同じ音量で話しても大量のエアロゾルを排出する「スーパーエミッター(排出者)」がいた。彼らがスーパースプレッダーになる可能性がある。

「明らかに、生理学的な理由があるはずです」。ひとつの可能性として、気道液の粘度と、それが引っ張られたときにどう反応するかが人によって違うのではと、リステンパート氏は考えている。

過去の研究では、大量のエアロゾルを排出する人が霧状の塩水を吸い込むと、エアロゾルの数が減ることが示された。塩水の霧を吸い込めば、気道液の粘度が下がる。ということは逆に、気道液の粘度が高い人は、より多くのエアロゾルを生産すると考えられる。

問題をややこしくさせているのは、呼吸器の感染症が気道液を変化させるということだ。例えば、細菌性肺炎や重度のインフルエンザに感染すると、水分が失われてたんぱく質が多く作られるため、気道粘膜の粘度が高くなる。ぜんそくやのう胞性線維症などの慢性的な病気も、気道液の粘度が高くなる要因になる。

対策は換気とマスク

その他の疑問を解明するにしても、エアロゾル自体の性質がそれを困難にしている。微粒子は周囲の環境に敏感なため、大きな飛沫から水分がすぐに蒸発し、小さくて濃度の高い粒子ばかりになり、測定結果がゆがめられる可能性がある。計測器でとらえた空気の温度、湿度、流れもまた、計測しようとするエアロゾルを変化させてしまうかもしれない。

このようなさまざまな問題が立ちはだかり、エアロゾルによる感染伝播の研究は数十年間進展を見せていなかった。「20年の今になっても、インフルエンザがどうやって拡大するかについてはっきりとした結論が出ていません」。そう話すリステンパート氏は、最近になって、インフルエンザウイルスが塵(ちり)の粒子に乗って移動することを示唆する論文を発表した。

だが、その研究分野が今、新型コロナウイルスのおかげで注目されている。03年に発生したSARSよりもなぜ新型コロナの方が空気を介して感染しやすいのかが、マイクロ飛沫感染によって説明できたためだ。

多くの専門家は現在、室内の換気をよくし、マスクを着用することで、マイクロ飛沫に乗って拡大する新型コロナウイルスの感染を抑えられるという意見に同意している。モラウスカ氏、ミルトン氏、その他多くのエアロゾル科学の専門家は今年7月、マイクロ飛沫感染にもっと注目すべきだと訴えた。米疾病対策センター(CDC)とWHOも、今ようやくこれを強調し始めている。

(文 FEDOR KOSSAKOVSKI、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年10月30日付の記事を再構成]

<原文サイト>

www.nikkei.com

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一読されると、“エアロゾル“の原理・仕組み・脅威等が伝わると思います。そして、COVID19の感染防止策が十分かどうかも判断出来るのではないでしょうか。

現在、首都圏に緊急事態宣言が出されている状態(3月7日まで)ですが、その延長が検討されています。昨日のPM(首相)の会見では、2週間程度の延長が見込まれるようですが、それだけでは不足でしょう。本当に収束させる気概があるならば、2週間の飲食業のロックダウンをすべきでしょう。そして、それすら出来ないようならば、五輪はアキラメるべきです。仮に五輪を実施したとすると、前述の記事の内容を思い知らされるような結果を目の当たりにすることでしょう。

*** 下の写真は、記事内容とは関係ありません。

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